離婚の判例集

離婚手続きに関する判例

離婚が有効とされた判例

最高裁判所 昭和38年11月28日判決
事実上の婚姻関係を継続しつつ、離婚届けを出した場合にも、法律上の婚姻関係を解消する意思さえあれば、協議離婚が有効に成立するとの立場から、単に夫に戸主を移すための方便として提出された離婚届けでも、協議離婚は、無効とはいえない。

最高裁判所 昭和57 年3月26日 判決
不正受給した生活保護金の返済を免れ、引き続き生活保護金の受給を受けるためにした離婚届でも、法律上の婚姻関係を解消する意思があるとして、離婚は無効とはいえない。

離婚が無効とされた判例

札幌高等裁判所 昭和55年5月29日 判決
夫が妻に対し、離婚届に署名するよう要求し、これを拒否した妻に対し茶碗等を手当たり次第投げつけるなどの乱暴な振る舞いをしたので、妻がその場を収拾するためやむなく離婚届に署名・押印し、夫がそれを役場に提出し、受理されてしまった事案につき、裁判所は、 離婚届に署名・押印するさい、妻は離婚の意思は全くなく、険悪な事態を収拾するための方便としてなされたものにすぎず、一方の夫も妻が離婚の意思がないことを知っていたのであるから、夫婦間に協議離婚の合意が成立したものとは認められず、離婚は無効である。

『離婚手続き』判例ポイント

「法律上の婚姻関係を解消する意思」の合致があれば、便宜上や方便のための離婚届でも離婚を無効にすることはできない。一方で、脅迫や詐欺などで夫婦間の合意のない離婚届による離婚は無効であるとの見解が一般的です。

養育費に関する判例

父に多額の借金があるが、養育費支払い義務は免れないとした判例

大阪高等裁判所 平成6年4月19日 判決
父が多額の借金を抱えているとしても、親の未成熟子に対する扶養義務は、余力がある範囲で行えばいいというようないわゆる生活補助義務ではなく、いわば一杯のご飯も分かち合うという性質のものであり、親は、子に対して、自己と同程度の生活を常にさせるべきいわゆる生活保持義務なのである。

したがって、父が多額の借金を抱えていたとしても、自らの生活を維持されており、借金の弁済すらなされている以上、未成熟子である本件事件本人の扶養義務を免れる余地はない。父が失業保険を受給中で現在無職であるが、失業保険の給付は、現実的には、失業者本人のみでなく、その家族等の生活の維持に対し一定の役割を果たしていることも本件養育費の算定に考慮すべきである。

また、無職であっても、新たな就職先を探す努力の程度内容、状況如何によっては、父の潜在的能力を前提にして、本件養育費を算定することをも検討すべきである。

再婚に伴う養育費の負担義務 子どもが母の再婚相手と養子縁組をした場合

神戸家姫路支 審判 平成12年9月4日
離婚後、母親が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組した場合には、未成年の養子に対する養親の扶養義務は、親権者でない実親の扶養義務に優先するとし、前夫に対する養育費の請求を却下した審判例。

公正証書により合意した養育費の減額 事情変更により減額を認めた事例

東京家 審判 平成2年3月6日
公正証書により合意した養育費の支払いについて、父及び母双方が再婚し、未成年の子どもらが母の再婚相手と養子縁組したことを事情変更と認め、毎月の養育費を生活保護基準方式により算定した金額に減額し、さらに、その終期を23歳までから成人に達するまでに変更し、かつ臨時出費負担義務を免除した審判例。

予備校受講料も「その他一切の教育に関する費用」に含まれるとした事例

広島地方裁判所 平成5年8月27日 判決
合計70万円に近い予備校受講料について、その負担が夫に経済的圧迫をもたらすことは明らかであるが、大学進学希望者らが受験準備のために予備校を利用することは一般的に行われていることから、目的及び内容において是認される範囲を超えたものとは認められず、更に前記金額(70万円)が不当に高額であるとも認め難いとして、夫にその支払義務があることを認めた。

また、「その他一切の教育に関する費用」には、子どもらが、個人的興味に基づいて行う活動に要する費用は、 含まれないとした。

成人に達した子どもから父への扶養料請求

東京高等裁判所 平成12年12月5日 判決
離婚調停で18歳まで養育費を支払う合意をしたが、離婚後、大学に進学した子どもが父に、大学授業料、生活費の扶養料請求をした事案。 扶養の要否を判断する要素として、奨学金やアルバイト収入の有無やその他諸般の事情を考慮した上で、親からの扶養の要否を論ずるべきものであって、その子が成人に達し、かつ健康であることの一事をもって直ちに、その子が要不要状態にないと断定することは相当でない。

『養育費』判例ポイント

離婚後も父母は、親権者であると否とを問わず子どもを扶養する義務を負い、その扶養の程度は、自己と同程度の生活を保持すべき生活保持義務である。

多額の借金を抱えている夫に対しても尚、養育費の支払い義務があることを認める判例もあり、離婚時、相手に支払い能力がないことを理由に養育費の取り決めさえしないことは避けるべきである。

離婚時と事情変更があれば、増額・減額請求ができることは判例で明らかになっている。養育費の金額については、判例でも、平成15年4月に、東京・大阪養育費等研究会により出された「養育費・婚姻費用算定票」に基づく算定が定着してきている。

財産分与に関する判例

財産分与と詐害行為

不相当に過大ではない限り詐害行為とはいえないとした事例
最高裁判所 昭和58年12月19日 判決
分与者が債務超過で、分与財産がほぼ唯一の財産の場合であっても、民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産分与であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象とならないとした。

配偶者が居住する建物の財産分与

敷地について使用借権を設定した事例
東京高等裁判所 昭和63年12月22日 判決
夫が農地解放で取得した土地やその売却代金で取得した不動産につき、清算的財産分与は認めず、主に扶養的財産分与として、妻が居住している建物および妻が店舗として使用している建物を分与し、居住している建物の敷地については使用借権、店舗の敷地については賃借権を設定するとした。

財産分与の対象財産

夫、妻名義の預貯金、著作権は対象とならないとした事例
東京家庭裁判所 平成6年5月31日 審判
夫婦それぞれが各自の収入、預貯金を管理し、それぞれが必要な時に夫婦の生活費用を支出する形態の夫婦について、それぞれの預貯金および著作権は清算的財産分与の対象とはならないとした。

将来の退職金の財産分与

将来受給する退職金から中間利息を控除して清算対象として算出し、即時の支払いを命じた事例
東京地方裁判所 平成11年9月3日 判決
将来退職金を受け取れる蓋然性が高い場合には、将来受給するであろう退職金のうち、夫婦の婚姻費用に対応する分を算出し、これを現在の額に引き直したうえ、清算の対象とするとして、夫婦の実質的な婚姻期間(別居時まで)に対応する分を、年5%の中間利息を複利計算で控除して、清算金を算出し、その即時の支払いを命じた。

また、夫が婚姻費用の支払いの一部怠っていること等を考慮し、清算金の支払いを担保するため、夫の所有するマンションに抵当権の設定を命じた。

『財産分与』判例ポイント

清算的財産分与では、名義の如何を問わず、婚姻中に形成した財産は、財産分与の対象財産となる。

一方の配偶者が婚姻前から有する財産や婚姻後でも相続や親族からの贈与に得た財産(特有財産または固有財産という)は、対象財産とならない。

一方で、清算的財産分与の対象となる財産がない場合においても、離婚後の元配偶者の生活の維持のために要扶養性があるケース(妻が高齢の専業主婦でめぼしい資産がない場合)では、扶養的財産分与が認められた判例もある。

配偶者に相当の資産、収入がある場合、清算的財産分与により相当の財産分与を受ける場合には、扶養的財産分与は認められない。

婚姻費用に関する判例

有責配偶者からの婚姻費用分担請求

請求を権利の濫用とし、子どもの監護費用のみを認めた事例
東京高等裁判所 昭和58年12月16日 判決
民法760条、752条に照らせば、婚姻が事実上破綻して別居生活に入ったとしても、離婚しないかぎりは夫婦は互いに婚姻費用分担の義務があるというべきであるが、妻が夫の意思に反して別居を強行し、別居が10年以上経過してから、婚姻費用分担の申し立てをした事案について、妻の生活費を請求するのは権利の濫用として許されず、子どもの監護費用のみの支払を命じた。

借金と婚姻費用分担額の算定

借金を理由として婚姻費用支払義務を免れることはできないとした事例
東京高等裁判所 平成8年12月20日 判決
婚姻費用の支払い義務者である夫に、同居している母親に返済している月8万円やカードローン及びサラ金への返済金がある場合に、これを理由に婚姻費用の支払義務を免れることはできない。

標準的算定方式による婚姻費用分担額の算定

働いていない妻の基礎収入を同年齢のパート収入から推定した事例
東京高等裁判所 平成15年12月26日 判決
妻が夫の給与を管理していたことから相当な預金が残っているはずだとの夫の主張に対して、その分与等の処置は、財産分与の協議又は審判若しくは離婚訴訟に付随する裁判において決められることであるとし、婚姻費用については別に支払義務があることとした。

また、働いていない妻(当時53歳)について、稼働能力は十分にあると認められるとして、同年齢のパート収入程度の年収(年間約128万円)が得られるものと推定し、婚姻費用分担額を算定した。

住宅ローン支払い分の控除

住宅ローンを特別経費として控除しないとした事例
最高裁判所 平成18年4月26日 判決
妻と子どもが居住している家について、夫が負担している住宅ローン返済額を夫の負債の返済であるとともに、夫の資産の維持のための出費であるとして、控除すべき特別経費として控除することは相当でないとした。

また、生活保護を受給している妻について、同年齢のパート収入程度の年収(年間約119万円)が得られるものと推定し、婚姻費用分担額を算定した。

『婚姻費用』判例ポイント

平成15年の東京・大阪養育費等研究会による「算定表」公表以降、裁判においても、婚姻費用分担額の算定について、算定表を使用することが定着している。

相続財産などの特有財産は、婚姻費用算定に当たり考慮しない。また、権利者が働いていない場合であっても、稼働能力がある場合には、同年齢のパート収入程度の年収が得られるものと推定し、婚姻費用を算定する考え方が定着している。

権利者が別居時に持ち出した預金については財産分与等で清算すべきものであり、婚姻費用分担額の算定に当たっては考慮しないとするものが多いが、義務者が容認している場合には、婚姻費用に当てることとし、婚姻費用分担義務はないとした判例もある。

婚姻費用分担義務の始期と終期については、判例では、始期は「請求時」もしくは「調停申立て時」をとるものが多く、終期については「別居の解消」または「離婚に至るまで」とするのが一般的です。

配偶者に対する慰謝料請求判例

財産分与後の慰謝料請求権​

財産分与の後でも離婚による慰謝料請求ができるとした事例
最高裁判所 昭和46年7月23日 判決
財産分与がなされても、それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額および方法において、請求者の精神的苦痛を慰謝するには足りないと認められるものであるときには、すでに財産分与を得たという一事によって慰謝料請求権がすべて消滅するものではなく、別個の不法行為を理由として離婚による慰謝料請求ができるとした。

性交渉がない場合の慰謝料​

500万円の慰謝料が認められた事例
京都地方裁判所 平成2年6月14日 判決
同居期間が2ヶ月足らずで、夫が性交渉をしなかったことを原因とする離婚について、500万円の慰謝料の支払を認めた。妻が購入した婚姻家具の費用や妻が結婚したため仕事をやめたことによる逸失利益をも考慮に入れたため、比較的高額の慰謝料が認められた。

『配偶者に対する慰謝料請求』判例ポイント

慰謝料額の算定について、判例から読み取れる考慮事情として、

  1. 相手の有責行為の内容程度
  2. 請求者の受けた苦痛、婚姻継続への態度
  3. 相手の資産、収入、社会的地位
  4. 請求者の職業、 資産、収入
  5. 財産分与の有無、金額
  6. 未成熟子の有無

が挙げられる。

一般には、婚姻期間又は 同居期間が長いほど慰謝料額が高くなると言われているが、実際には、婚姻期間または,同居期間と 慰謝料額との相関は見られないと思われる。

不貞行為の相手に対する慰謝料請求判例

婚姻関係が既に破たんしている場合における不貞行為の相手に対する慰謝料請求

相手方は配偶者に対し不法行為責任を負わないとした事例
最高裁判所 平成8年3月26日 判決
配偶者と第三者が肉体関係を持った場合に、婚姻関係が既に破綻していたときには、特段の事情がない限り、 配偶者と肉体関係を持った第三者は、原告に対して不法行為の責任を負わないとした。

婚姻関係が破綻していない場合の慰謝料​

相手の責任は副次的とし、慰謝料を50万円とした事例
東京地方裁判所 平成4年12月10日 判決
婚姻費用の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって維持されるべきものである、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあるというべきであって、不貞の相手方の責任は副次的であり、且つ、不貞関係を既に解消していること、原告と配偶者の夫婦関係破綻の危機は乗り越えられていること等の事情を考慮し、不貞の相手方が支払うべき慰謝料額を50万円とした。

配偶者の慰謝料債務の免除​

不貞行為の相手の慰謝料債務には影響しないとした事例
最高裁判所 平成6年11月24日 判決
配偶者とその相手の不貞行為は、他方配偶者に対する共同不法行為であり、その損害賠償債務は不真正連帯債務であること、不真正連帯債務には、連帯債務者の1人に対する免除の効力に関する民法437条は適用されないこと、従って、妻が夫との離婚調停において夫の慰謝料債務を免除した場合、その免除は夫と肉体関係をもった第三者に対する慰謝料請求権には影響しないこととした。

未成年の子どもからの慰謝料請求

子どもの不利益と同棲相手の行為は因果関係がないとした事例
最高裁判所 昭和54年3月30日 判決
妻子のもとを去った男性の子どもが、父親から愛情や、教育を受けることができなくなったとしても、父親と肉体関係のある同棲している女性が、害意をもって父親の子どもに対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、その女性の行為は未成年の子どもに対して不法行為を構成するものではない。

『不貞行為の相手に対する慰謝料請求』判例ポイント

婚姻関係の破綻の有無および破綻と肉体関係の時期の先後が争点となり、既に破綻していたときには、 婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益がないため、特段の事情がない限り、肉体関係を持った第三者は不法行為責任は負わないとするのが一般的な裁判所の考え方です。

あくまでも不貞行為の一時的な責任は配偶者にあり、特段の事情がない限り、不貞行為の相手方の責任は副次的であるという学説の影響も有り、慰謝料の金額は低額化の傾向にあり、50万円~300万円ぐらいの判例が多い。

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